2025年6月26日木曜日

『時・条件の副詞節では、「未来の動詞( will do )」を、「現在の動詞( 動詞・現在形 )」で代用する』は、「錯覚」では?(2)

(1)の内容をまとめると、


『動詞・現在形が扱う「現在」の範囲は、「うごき」が実現すると見込める時間の範囲』、

ということになります。


 If it rains tomorrow, we will cancel the picnic.

では、

「雨が降る」という事態が、(実際に降るかどうかには、まったく関係無く、)

実際に降ることを「前提」にしないと、

「その場合は、~しよう」という対応を考えることができません。

 したがって、この場合は、「現在において考えて、実現する見込みがあると思われる”動き”」を表す「動詞・現在形」"rains" が使われます。


次は、"My Name Is Aram" ( William Saroyan ) の中の、

"The Summer of the Beautiful White Horse" の一場面で、

カリフォルニアの小さな町の夏の明け方、眠っていた Aram(9歳)の部屋の窓ガラスが叩かれ、外を見ると従兄のMourad (13歳)が美しい白馬に跨っていて(前月から、ある農家の馬を黙って連れ出して、廃農園の納屋に隠していたのでした)、二人で白馬を走らせた後、まず、Mourad が一人で駆け、次に Aram が一人で乗ったとき、この朝までに何度も乗っていた Mourad と違って、馬に乗るのが初めてだった Aram は、馬を走らせる方法を知らず、馬はじっとしたままでした。

 そこで、Mourad は、馬の筋肉 (muscles )を蹴るように言い、さらに、

    We've got to take him back before everybody in the world is up and about.

 「そこらじゅうの誰もが起きて、出歩く前に、馬を戻さなけりゃならないんだ」

と言います。( have<助動詞> got to take = have<他動詞> to take )

人々が起き出すのは、これからですが、それは常識的に、確実に起こることで、また、その事態が起きなければ、"We've got to take him back" という対応も出てこないので、

『動詞・現在形』が使われます。


 ところが、Aram は、腹の筋肉を蹴られて勢いよく走り出し、道路を逸れて果樹園のブドウの木々を飛び越えだした馬から振り落とされ、二人で大急ぎで馬を探さなければならなくなって、その時の Mourad のセリフが、

”If you come upon him, be kindly.   I'll be near." 

「馬に出くわしたら、やさしくしろよ。 俺は近くにいるからな」

で、

馬に出会うという事態が発生しなければ、"be kindly" という対応もあり得ないので、

馬に出会うという事態は、必ず発生してもらわなければなりません。そこで、

「時間のモノサシ」では、「先の時間域」における事態(馬が見つかること)であっても、

『現在において考えて、実現可能性のある”うごき” を表す「動詞・現在形」』come upon が使われます。


 馬が遠くへ駆け去ってしまって、二人の男の子では見つけられない、ということも、客観的には考えられるのですが、Mourad は、見つけないわけにはいかない、見つかるはずだ、という思いで、実現可能性のある『動詞・現在形』come upon を使っています。

つまり、「”うごき”が実現するかどうか」は、多くの場合、主観的に判断されることになります。


 「先の時間域」において、Aram が白馬に出会うことは、「そうであってもらわなければ困る」ので、

come upon が使われますが、

そのとき「Mourad も近くにいるだろう(、だから安心しろ、) 」という事態は、確実性が無く、 『推測』するしかないので、

will be near  

 と、「未来の動詞」が使われます。





『時・条件の副詞節では、「未来の動詞 ( will do )」を「現在の動詞 (動詞・現在形)」で代用する』は、「錯覚」では?(3)

 (2)にあったように、ある「うごき」が「これから先の時間域において実現する可能性がある」という判断は、考える人次第(主観的な判断)である場合が多いのですが、

客観的な事情から、

「ある事態(そして、その事態を成り立たせる”うごき”)が、確実に実現する」、

と判断される場合もあり、

その場合ももちろん、「実現可能性のある”うごき”であることを表す、動詞・現在形」が使われます。

 

 たとえば、the Andromeda Galaxy(アンドロメダ銀河)は、秒速・約122kmという猛スピードで(と言っても、宇宙のスケールからすれば、蟻が大陸を横断するようなかんじでしょうが)、

私たちの the Milky Way Galaxy(天の川銀河)に接近しつつあり、約40億年後には、両者は衝突するそうで、これは、確実に発生する事態だそうです。

 ただ、恒星どうしがきわめて遠く離れているので

(地球に一番近い「プロキシマ・ケンタウリ」が4.24光年、二番目に近い「リゲル・ケンタウルス」が4.37光年、三番目の「バーナード星」が5.96光年、四番目の「ルーマン16」が6.5光年、5番目の「ウォルフ359」が7.8光年という具合で、たとえば

4.24光年は、100億光年より遠い天体がいくらでもある宇宙では、隣の家のように近くに思えますが、言うまでもなく、これは光が4.24年間飛び続ける距離なので、やはり実感できないほどの大変な遠さです)、

アンドロメダ銀河と天の川銀河が衝突する時も、恒星どうしが衝突することはまずないそうです。

 こうした事態を表現すると、

When the Andromeda Galaxy collides with our Milky Way Galaxy in about 4 billion years , no stars will collide with each other due to the great distances between them. 

のようになり、

* 二つの銀河の衝突は、現代の天文学の見解では「確実に実現する」ので、

  『動詞・現在形』collides、

* そのときに、恒星どうしは、まず、衝突しないだろう、という事態は、あまりに遠い先の時間域のことで、個々の恒星の動きは『推測』するしかなく、

  『未来の動詞』will collide 

が用いられます。

   

『時・条件の副詞節では、「未来の動詞(will do)」 を 「現在の動詞(動詞・現在形)」で代用する』は、「錯覚」では? (1)

 If it rains tomorrow,  we will cancel the picnic.

「明日、雨が降るなら、ピクニックはやめにします」

では、


 "tomorrow"と、「明日」の事態を述べているので、明らかに『未来』のことを扱っています。

それなのに、"rains"という、『動詞・現在形』が使われているので、どうしても、

「未来の動詞」 ”will rain” が、『動詞・現在形』"rains"で「代用」されている、

ように見えます。


 しかし、"tomorrow" が表す『未来』は、カレンダーや時計のような「時間のモノサシ」で捉えられる、「先の時間域」としての『未来』です。


 そして、「時間のモノサシ」で捉えられる『未来』と、

「未来の動詞」"will rain" で扱われる『未来』とは、

まったく別のものです。

ここに、『時・条件の副詞節では、「未来の動詞」が「現在の動詞」によって代用される』という、不思議な文法規則が発生した原因があるようです。


 未来の「うごき」を表すためには『助動詞』"will" が用いられ、

"will do" となりますが、 

"will" のはたらきは、もともとは『推測』です。

つまり、はっきりとはわからない、自信を持ってこうだと断言できない事態を、「 ~だろう」と一応言っておくのが、will のはたらきです。


 たとえば、空間でも水中でも、近くにあるものは、はっきり見えるので、「あれは、~だ」と断定できます。

したがって、 それほど遠くない海面上に黒いものがあって、形からクジラだと、自信をもって判断できるなら、

"That black thing over there is a whale."    

と言えます。


 それが、もっと遠い、水平線の上に見える黒い点となると、自信を持って判断できないので、

"That black speck on the horizon will be a whale."

のように、

「あの、水平線の上の黒い点は、クジラだろう」と『推測』することになります。

( ただ、will が使われるのは、かなりの自信を感じている場合で、自信があまり無い場合は、

  might、could [ 弱い実現可能性を表す助動詞・(過去形の形であっても、この例文では)現在形 ] が使われます) 


 つまり、空間における「距離」と「自信の程度」の間には、ある程度の相関関係があって、

距離が近くて、自信を持って「あれは、~だ」と言える範囲と、

 その向こうの、自信を持てずに「あれは、~だろう」と言う範囲に分かれます。


 「時空」という概念があるように、「空間」と「時間」は、奥行きがあるという点で、似ています。

「空間」を「時間」に置き換えると、

「空間」の場合と同じように、

「時間」は、

「それは A だ、と自信を持って判断できる時間の範囲」と、

「自信を持って判断できず、あれは A だろう、と推測するしかない時間の範囲」

とに分かれます。


 かなりの時間を隔てているために、先の「時間域」において、ある事態が発生することを断言できず、『推測』するしかない場合は、

"will do" が用いられ、


 先の「時間域」における事態であっても、そこでの「うごき」の実現を見込める場合は、

『推測』の要素が無いので、

"do(動詞・現在形)" が用いられます。 

 つまり、「時間のモノサシ」のうえでは「先の時間域」(『未来』)の事態であっても、

それとはまったく無関係に、そこでの「実現の見込みがある”うごき”」は、

『動詞・現在形』do で表されます。



2025年6月16日月曜日

火星への旅(6) How to Get to Mars    by Andrew May

Destination Mars:   The Story of Our Quest to Conquer the Red Planet 

   目的地は火星:  赤い惑星を征服しようとする私たちの探究の物語


Rocket Science   (6)


     Science fiction fans may recognise 'delta-v' as a buzzword authors use when they want to indicate that a character is a rocket scientist.

 サイエンス・フィクションのファンは、’デルタ-v’ 【宇宙空間において、移動・軌道変更に要する速度の変化量】を、或る登場人物がロケット科学者であることを示したいときに作家が用いる専門用語として、認識するかもしれない。


But the authors are right:   rocket scientists talk about delta-v -- even in real life.

しかし、作家は正しい: ロケット科学者は、デルタ-v について話す---現実の生活においてさえも。


Down on terra firma, car manufacturers obsess about acceleration -- for example, the number of seconds taken to get from zero to 100 km/h.

ずっと低い地球上でも、自動車メーカーは加速に執着する -- たとえば、ゼロから時速100キロメートルに達するために費やされる秒数。


But in space, the important thing is the 'difference' between the final and initial speeds ( 100 km/h in that example ).

しかし宇宙では、重要なのは、最終と最初のスピードの’差’(その例では、時速100キロメートル)である。


That's the delta-v.

それがデルタ -v である。


It doesn't matter if it takes a few seconds or several hours, as long as the desired delta-v is achieved.

わずかな秒数を要するか数時間かは、望まれたデルタ-v が達成される以上は、問題ではない。










2025年6月6日金曜日

東アジア大陸: 南北異世界並立期のカオス的状況(15) China Between Empires by Mark Edward Lewis 

 **   The Rise of The Great Families   ( 11 ) 

    豪族の勃興


  *   The Han Collapse and the Rise of the Three Kingdoms   (1) 

    漢の崩壊と三王国の興隆



The Eastern Han empire collapsed for several reasons.

東漢(後漢)帝国は、幾つかの要因で崩壊した。


In the countryside, a rising population and the increasing concentration of land in the hands of powerful families led to widespread misery, social breakdown, and banditry.  

地方では、増大する人口と、有力な複数の豪族の手への、土地の集中の進行が、広範な窮乏、社会の破綻、そして山賊の横行につながった。


The capital-based army was too small and remote for police action, even if it had not become a sinecure for the sons of wealthy families and thereby lost its military effectiveness.

首都(洛陽)に基盤を置かれていた軍隊は、警察活動をするには小規模に過ぎ、遠隔地にあり過ぎた  /  仮に、この軍隊が、富裕な豪族の子弟の名誉職になって、それによって、その軍事力の有効性が失われた、ということが無かったとしても(現実には、そうなっていたが)。


As for the standing armies at the frontier, after universal military service was abolished they had become private commands of the generals who recruited them and in whose service they were permanently bound.  

辺境の常備軍については、全ての民衆が兵役に就く制度が廃止された後、常備軍は、それらを募兵した将軍たちの私的な部隊になっていて、将軍たちの軍務に、恒久的に束縛された。


Tensions on the frontier were exacerbated by the Eastern Han policy of "using barbarians to fight barbarians," which led the court to resettle supposedly allied tribes inside China, where they continued to pillage Han villages. 

辺境における緊張状態は、東漢の”蛮族を用いて蛮族と戦う” という政策によって悪化しており、そのことが、宮廷に、中国の内部にあって漢の村落を略奪し続けていた、同盟関係にあると思われていた部族を、移転させることを考えさせた。

2025年6月5日木曜日

Duel(17) Richard Matheson

      The movement of his car was paralleled immediately by the truck. 

       彼の車の動きは、たちまち、そのトラックによって、同じ動きで応じられた。


Mann stayed in place, right hand jammed down on the horn bar.

マンはそのままの位置を保ち、右手はホーン・バー【ステアリング・ホイールの内側に取り付けられた、円弧状のホーンのスイッチで、古い年代の車で使用されました】をぐいと押し込んだ。


Get out of the way, you son of a bitch! he thought.

どけ、この野郎! と、彼は思った。


He felt the muscles of his jaw hardening until they ached.

彼は顎の筋肉が強張っているのを感じ、ついには筋肉が痛くなった。


There was a twisting in his stomach.

彼の胃には、よじれるような感覚があった。


 "Damn!"

 ”畜生!” 


He pulled back quickly to the proper lane, shuddering with fury. 

彼は、怒りに身震いしながら、急いで本来の車線に戻った。


"You miserable son of a bitch," he muttered, glaring at the truck as it was shifted back in front of him.  

”嫌な野郎め” と、彼は、トラックが彼の前に戻ったとき、トラックを睨みつけながら、呟いた。


What the hell is wrong with you?

お前は、いったい何が気に入らないんだ?


I pass your goddamn rig a couple of times and you go flying off the deep end? 

俺がお前の忌々しいトレーラーを二、三度追い越せば、お前はすぐにカッとするんだろ?

* go off the deep end「カッとする」に、flying「飛ぶように進んでいる」が加わって、 go を副詞のように補い、「一気にカッとする」という、激高するまでの時間が短いニュアンスを表しています。  


Are you nuts or something?

お前はイカレてでもいるのか?


Mann nodded tensely.

マンは、緊張したまま頷いた。


Yes, he thought; he is.

そうだな、と彼は考えた;  こいつはイカレているんだ。


No other explanation.

他に説明のしようが無い。






2025年5月16日金曜日

Moominland Midwinter ( 27th ) ムーミンランドの真冬 by Tove Jansson

 CHAPTER   ( 2 )     

The bewitched bathing house   ( 7 )

魔法をかけられている着替え小屋


     Only now Moomintroll began to feel the cold.

 ようやく、ムーミントロールは、寒さを感じ始めました。


The evening darkness came crawling out of the clefts and climbed slowly up towards the frozen ridges.

夕闇は、幾つかの谷間から這い出てきて、凍りついた嶺々に向かって、ゆっくりと上ってきました。


Up there the snow was gleaming like bared fangs against the black mountain;  white and black, and loneliness everywhere.

その高みでは、雪は、黒々とした山を背景に、剥き出された牙のように輝いていました; どこもかしこも、白と黒との寂しい眺めでした。


     'Somewhere on the other side of it all is Snufkin,' Moomintroll said to himself.

 ’あの全部の山々の向こう側のどこかに、スナフキンがいる’ と、ムーミントロールは思いました。


'He's sitting somewhere in the sun, peeling an orange.

’彼は、どこかで腰を下ろして太陽を浴びて、オレンジを剝いているんだ’


If I only knew that he knew that I'm climbing these mountains for his sake, then  I coukd do it.

ぼくが彼に会うためにこの山々を上っている、と彼が知っている、と分かりさえすれば、ぼくは上れるだろうけど。

* 「過去にさかのぼってうごきを実現させることは出来ない」ことから、『過去形』を使って「実現可能性が無い  /  実現可能性が弱い」というニュアンスを表現できます。

   **   If I only knew・・・ の knew =「(実際は知らないけれど)仮に知っていれば」 

  knew=「(現実の世界とは別の)仮定の世界、の他動詞」の『現在形』   

 **   I'm climbing・・・ の am climbing =「(現在において)上っている」

  am climbing =「現実の世界」の「進行の動詞」の『現在形』 

 **   I could do・・・  の could = [  knew「(実際は知らないけれど)仮に知っていれば」を前提に  ] 「(現在において)できるだろう」  

  could =「(現実の世界とは別の)仮定の世界、の助動詞」の『現在形』


But all alone I'll never manage it.' 

でも、一人きりでは、やれないだろうな’